企業間でビジネスを行うときに、避けては通れないのが契約書です。簡単な契約書などはインターネット上で公開されているひな形やテンプレートを使用して自分で作成することはできますが、きちんと細部にまで目を配らないと後々トラブルにもなりかねません。
契約書についての理解を深め、どのような要素が必要なのかを知っておくことはビジネスパーソンにとって非常に大切なことです。
今回のコラムでは、契約書の役割や種類、どのシチュエーションでどの契約書を使用するかなど、契約書に関する情報をご紹介します。契約書のことで悩みを抱えている方はもちろん、会社員や個人事業主などどなたにでも役立つ情報が満載なので、ぜひ参考にしてみてください。
契約書とはどんなもの?
そもそも契約書はなぜ必要なのでしょうか。契約書とは、取引当事者間の合意内容を整理し、書面にまとめ、取引当事者が確認したものです。
重要なのは「書面にまとめられたもの」であること。取引についての交渉をする場合、話し合いの中での口約束でも契約は成立します。ですが、口頭での契約の場合、認識のすれ違いが起こり、言った言わないのトラブルになる可能性もあります。そういったトラブルを避けるためにも、契約書を作成することがビジネスの世界での常識となっています。
諾成契約と要物契約
「契約」とはどのようなものなのかを解説していきます。まず、契約は諾成契約と要物契約に分類されます。
諾成契約とは、取引当事者間の合意によって成立する契約です。企業で取り扱われるほとんどの契約は、この諾成契約に該当します。一方、取引当事者間の合意だけでは契約が成立せず、目的物の引き渡しによって契約が成立となるのが要物契約です。要物契約は実際に金銭や商品の引き渡しが行われて初めて契約成立となります。
2020年4月に民法の一部が改正され、取引の実情を踏まえ、以前は要物契約とされていた契約が諾成契約に変更されました。要物契約から諾成契約に変更された契約は以下の通りです。
代物弁済契約
債権者と債務者の間で本来の給付の代わりに他の物品などを給付することにより、債務を消滅させる契約
消費貸借契約
相手から受け取ったものと同種類・同品質・同数のものを返還する契約(書面等による契約のみ)
使用賃借契約
無償借りたものを使用し、契約終了時にそれを返還する契約
寄託契約
当事者の一方が物品の保管を委託し、相手が承諾する契約
民法改正により、書面または電磁的記録によらない消費賃借契約のみが要物契約に該当することになりました。
要式契約と不要式契約
契約は「要式契約」と「不要式契約」という区別の仕方もできます。要式契約とはある一定の方式に従って締結する必要がある契約で、不要式契約は要式契約以外の契約のことを指します。
契約は基本的には当事者間の合意によって成立するため、不要式契約であるのが原則です。ただ、一部の契約においては要式契約であることが求められます。保証契約や定期建物賃借契約、消費貸借契約などは、書面や電磁的記録でする契約締結が必要なので要式契約となります。
要式契約と不要式契約の区別は、諾成契約と要物契約の区別とは別ですので、成契約の中でも要式契約と不要式契約の両方が混在しています。
契約書を結ぶ理由
契約の多くは口約束でも成立しますが、中には契約書を作成しなければ法律上、契約成立が認められないケースもあります。ビジネスの世界では、契約書を作成することで契約におけるあいまいな部分をなくし、トラブルや認識の齟齬が起こることを避けることができます。契約書を作成する利点は以下の通りです。
当事者間の合意内容と契約成立を確実なものにする
例えば、ある販売店が卸業者から商品を購入する場合、商品の1個当たりの値段や購入する数、納期などを明確にしておく必要があります。こういった点は口約束ではあいまいになる可能性があり、これらを書面に残しておくことで取引相手との認識の齟齬を防ぐことができます。
紛争化した際の解決策となる
契約の中でのトラブルが起こった場合、契約書を結んでおくことで当事者間での解決がしやすくなります。例えば、不測のトラブルがあり、卸業者が約束の納期までに販売店に商品を納品することができなかったとしましょう。そういった事態が起こったとしても、前もって契約書に不測のケースごとの対応を明記しておくことで、紛争になることを避けることができます。
裁判になった際の証拠となる
もしも当事者間での解決ができず裁判となった場合でも、契約書を作成していればそれが重要な証拠になります。取引の中で大きなトラブルが起こったとしても、契約書を作成しておくことで争いの解決への大きな効力となります。
契約書の種類
契約書は用途や目的によってさまざまな種類に分けられています。代表的な契約書をいくつか紹介していきます。
売買契約書
売買契約とは、取引当事者が商品やサービスを売買する際に結ぶ契約です。売主と買主がある売買を行うときに成立する契約であり、企業同士の売買はもちろん、一般社会でもスーパーやコンビニエンスストアで買い物をするときにお客さんとお店との間で売買契約が成立しています。
取引基本契約書
取引基本契約とは、企業間で継続的に取引を行う際に、個々の取引に対して共通して適用される基本的な条項についてあらかじめ規定する契約です。継続的に取引を行う場合、個別の取引ごとに契約書を作成するのはとても手間がかかります。
取引基本契約で秘密保持条項や契約の解除条項など基本的な内容を合意しておくことで、個々の取引では取引基本契約以外で必要な部分を盛り込むのみで済ませることができます。
秘密保持契約書(NDA)
秘密保持契約とは、内部だけでとどめておきたい秘密情報の定義を決め、その取扱い方などについて規定する契約です。英語では「Non-Disclosure Agreement(非開示合意)」と呼ばれているため、その略称から「NDA」とも呼ばれています。取引の中で社内の秘密情報などを取引先に共有する場合、その情報が漏洩するリスクを避けるための契約となっています。
業務委託契約書
業務委託契約とは、委託者が受託者に対して、業務を発注する契約です。委託とは「他者や企業に業務を依頼すること」であり、受託とは「他者や企業からの依頼を引き受けること」です。
「業務委託契約」という言葉は法律として定められているわけではなく、法的な定義が決められているわけではありません。一般的に、業務委託契約は業務の性質により「請負契約」「委任契約(準委任契約)」「請負契約と委任契約の混合型」の3種類に分類されます。
請負契約とは、業務の委託者と受託者の間で結ぶ契約です。受託者はある業務での「仕事の完成」を約束し、委託者がその「仕事の成果物」に対して報酬を支払います。例えば、WEBサイトのページ制作や記事の執筆の外注などが請負契約に該当します。
委任契約(準委任契約)とは、請負契約同様に委託者と受託者の間で結ぶ契約ですが、委託者は「法律行為の委託」を目的としています(準委任契約では「法律以外の行為の委託」)。例えば、訴訟行為の代理を弁護士に委託したり、確定申告の代理を税理士に委託することなどが委任契約に該当します。
雇用契約書
雇用契約とは、企業が従業員を雇う際に結ぶ契約です。労働者(従業員)が労働に従事し、雇用主(企業)が労働者に対しての報酬を与えます。雇用契約書の作成は法律上、義務付けられてはいませんが、トラブルやリスクを回避するためにも労働条件などを明記した雇用契約書を作成するのが良いでしょう。
シーンごとの契約書の使用例
ここからはビジネスシーンで見かけることが多い契約書のそれぞれの使用例を紹介していきます。
取引基本契約の使用例
取引基本契約書は、今後継続的な取引が見込まれる際に、個々の取引に共通して適用されるルールを事前に決めておくものです。なので、一定期間でも継続的な取引が確定しているシチュエーションで締結するのが一般的です。
売買契約書の使用例
売買契約書には取引によって非常に多くの種類が存在しますが、主には「不動産関連」か「物品(商品)関連」の2パターンに分類されます。不動産売買契約書は、土地や建物などの不動産の売買を行う際に仲介する不動産会社によって作成されるのが一般的です。物品売買契約書は、物品(商品)の売買を行う際に作成します。企業間だけではなく、企業と個人の取引の中でも作成されることが多いです。
秘密保持契約書の使用例
秘密保持契約書を結ぶことが多いシチュエーションとして、「新規取引を行う場合」や「業務委託をする場合」、「共同開発などを行う場合」などが挙げられます。新たな取引を開始する場合は自社の技術情報やシステム環境、個人情報などのデータを取引先に提供する可能性もあります。また、業務委託や業務提携、共同開発など取引先に自社の情報やデータを共有するシチュエーションにおいても、秘密保持契約を結ぶのが一般的です。
知っておきたい契約書の豆知識
ここからは会社員が知っておきたい契約書に関する豆知識を紹介していきます。契約書にかかわることがない業務や役職だとしても、ビジネスパーソンであれば知っておいて損はない情報ですので、ぜひ知識として持っておいてください。
印紙税
印紙税とは、契約書や領収書などの経済的な取引のために作成された書類に課せられる税金のことです。作成した契約書が印紙税の対象となる「課税文書」に該当する場合は、契約書に必要額の収入印紙を貼付しなければなりません。契約書の内容によって課税文書であるかどうかが判断されるので、該当するかどうかはしっかりと確認するようにしましょう。
電子契約
電子契約とは、契約書の作成に紙を使用せず、インターネット上で契約を締結することです。従来の紙の契約書における会社印やハンコでの押印の代わりに電子署名(電子サイン)を行うことで契約の締結となります。これにより押印後の紙の契約書と同等の効力・セキュリティ性を担保しているのが電子契約です。
電子契約を行うことで、印刷・製本・郵送といった手間のかかる工程を省略できるので、契約業務が効率化されます。また、クラウド上でデータを管理できるので、複数の取引当事者がいたとしても確認がしやすく、作業の遅れや漏れが起きにくくなるというメリットがあります。
無効な契約
契約の効果が初めからないもののことを「無効」といいます。例えば、重度の認知症など意思能力がない人が結んだ契約や公序良俗に反する契約、取引相手と示し合わせて結んだ嘘の契約などは無効な契約となります。
契約書の知識を持っておくことはビジネスパーソンの強みに
今回は契約書についてのさまざまな情報をご紹介しました。契約書についての理解を深めることはビジネスシーンでは避けては通れない重要事項です。ビジネスにおけるトラブルやリスクを回避するために、当事者間での合意事項や認識の齟齬がないことをしっかりと確認しましょう。
どんな企業に勤めているとしても、契約書についての知識を持っておくことはビジネスパーソンにとって強みになります。取引先との商談が成功した場合、契約書についての知識を持っておけばその後のフローもスムーズに説明でき、取引を円滑に進められることにも繋がるでしょう。本記事を参考に、契約書についての理解を深めてみてください。