日本漢字能力検定協会が毎年12月に発表する「今年の漢字」で、2023年の漢字に選ばれたのは「税」でした。「今年の漢字」は、その年に世相を表すのに相応しい漢字一文字を広く一般から募集し、最も多かった字が選ばれていますが、2023年はインボイス制度の導入やふるさと納税のルール厳格化などが行われたほか、国会で増税議論が行われたことから、「税」に対する国民の関心が一段と高くなったようです。
給与はなかなか上がらないのに、物価だけがどんどん上昇し続ける中、税金まで上がったら生活はますます苦しくなってしまう…そんな思いが「税」への関心を高めているのかもしれません。
こうした状況の中、「会社勤めの自分にもできる節税対策をして、少しでも多くのお金を手元に残しておきたい」と考えている会社員も少なくないのでは。そんな方にこそ、ぜひ知っておいてほしい節税方法をご紹介します。
自分の可処分所得はいくら
給与から引かれる税金を把握する
会社員の給与は総支給額から税金などが差し引かれた金額が手取り額として支払われているため、実感がわきにくいかもしれませんが、明細書を見ても分かる通り、実はさまざまな金額が差し引かれています。
その代表が所得税です。所得税は個人の所得にかかる国税(国が徴収する税)で1年間に得たすべての所得の中から所得控除を差し引いた残りの課税所得に、金額に応じて設定された税率をかけて税額を計算し徴収するものです。累進課税方式で、所得が多ければ多いほど支払う税額が多くなるのが特徴の一つとなっています。税率は7段階に分かれていて、最も高いのが45%。年間4,000万円以上の所得がある人が対象です。単純計算で5,000万円の所得があった人は2,250万円が税金ということになります。
給与から差し引かれるもう一つの税金が住民税です。教育、福祉、消防、救急、ごみ処理など私たちの暮らしに密着した行政サービスを賄うため、対象者が住んでいる地域の自治体に支払われる地方税です。所得に応じて負担する所得割と一定額を負担する均等割があり、所得割が所得の10%(市町村民税として6%、都道府県民税として4%)、均等割が年額5,000円(市町村民税として3,500円、都道府県民税として1,500円)となっています。
給与から差し引かれるのは税金だけではありません。雇用保険料、厚生年金保険料、健康保険料といった社会保険料も差し引かれます。雇用保険料は、会社員が退職や失業をした際に給与の代わりとなる失業保険を支給することを目的とした保険で、その掛け金は雇用主と従業員の双方が負担することになっています。保険料率は毎年見直され、令和5年度の一般事業の事業者負担は9.5/1000、労働者負担は6/1000です。
厚生年金保険とは、会社員など会社で働いている人が加入する公的年金制度のことを言います。保険料は給料から標準報酬月額を計算し、そこに保険料率(現段階では18.3%)を掛けて算出。その金額を会社と労働者が半分ずつ負担することになっています。
健康保険とは、会社員など民間企業に勤務している人とその家族が加入する医療保険制度です。こちらも厚生年金保険料と同様に、労使で折半することになっています。
節税対策をするのであれば、まずは現状を把握しておくことがポイントになります。給与明細を見て確認しておきましょう。給与から税金と社会保険料を差し引いた金額のことを可処分所得と言いますが、上手に節税対策をすれば可処分所得を増やすことができるはず。ここからは会社員におすすめの7つの節税対策を紹介します。
節税対策① 特定支出控除
皆さんは仕事用のスーツを購入したり、仕事に関連したビジネス書や自己啓発本といった書籍を購入した際、「仕事に必要なものだから」と会社に経費として請求をしていますか? おそらくしていないと思います。
しかし、会社員でも確定申告をすることで、国が認めた特定支出の一部を申告すれば、支払った税金の一部が還付される嬉しい制度があるのをご存じでしょうか。それが特定支出控除です。特定支出控除は次に挙げる7つの支出が対象となります。
・通勤費…通勤費用を自分で支払っている場合や、会社から支給されている交通費を超えて支払っている場合に申請することができます。
・職務上の旅費…出張で遠方へ行く際の費用も特定支出控除の対象です。通常は会社から支給されるため、申請する機会は少ないかもしれません。
・転居費…転勤に伴い引っ越しをする際の引っ越し費用も対象になります。このケースも職務上の旅費と同様に会社から支給されることが多いです。
・研修費…仕事で必要な技術を身につけるための研修やセミナーの費用も対象です。自費で受けた場合は積極的に申請すると良いでしょう。
・資格取得費…運転免許を取得するために自動車学校へ通ったり、MBA取得のために大学院へ通ったりした場合も当てはまります。医師や弁護士、公認会計士などの国家資格も対象です。
・帰宅旅費…単身赴任者が配偶者の住む住居に戻る際の交通費も特定支出になります。1カ月に4往復までという制限がありますが、週末は必ず自宅に戻るという単身赴任者には嬉しい制度です。
・勤務必要経費…ビジネス書や自己啓発本などの仕事に関する書籍代(図書費)、スーツやビジネスシューズの購入費(衣服費)、職務上関係のある人に対する接待や贈答に関する支出(交際費等)なども控除の対象となります。
特定支出控除は特定支出が給与所得控除額の半分を超える場合が対象となります。まずは自分の給与所得控除額がいくらになるか確認しておくことが大切です。また、控除を受けるためには、会社から仕事上必要だと認められたことを証明する書類と領収書が必要となるので、準備をしておくと良いでしょう。
節税対策② 医療費控除
1年間(1月1日〜12月31日)に本人または扶養家族が10万円以上の医療費を支払った場合所得控除を受けられる制度があることをご存じでしょうか。課税対象となる所得額が減るので、所得税や住民税が節税できます。
病院への通院費や治療費、治療に必要な薬代、入院費のほか、入院時の部屋代や通院に必要な交通費も対象となります。例えば、持病があって週に1度通院している人や大怪我をして長期の入院を余儀なくされた人などは対象となるので確認してみると良いでしょう。
ただし、医療費控除は年末調整の対象外となるので、会社員が控除を受けようと思ったら確定申告が必要になるのでご注意ください。いずれにしろ、病院を受診した際や、薬局で薬を購入した際の領収書は分かるようにして保管しておくことをお勧めします。
節税対策③ セルフメディケーション税制
国民が自分自身で健康維持や病気予防に取り組んでもらうとの観点から始まったのがセルフメディケーション税制です。医療用から転用された医薬品(スイッチOTC医薬品)の購入費用が12,000円を超えるときは、その超える部分の金額(上限は88,000円)を所得から控除する制度です。もともと2017年1月1日から2021年12月31日までの予定でしたが、2026年12月31日まで適用期間が5年間延長になりました。
スイッチOTC医薬品は、風邪薬、胃腸薬、鼻炎用内服薬、水虫・たむし用薬、肩こり・腰痛・関節痛の貼付薬といったいわゆる市販薬です。ドラッグストアをよく利用する方は領収書を無くさずに取っておくようにしましょう。
セルフメディケーション税制は医療費控除とは同時に申告できません。注意が必要です。
節税対策④ 生命保険料控除
もしものために備えて生命保険に入っている会社員は少なくないと思います。生命保険料控除は1年間(1月1日〜12月31日)に支払った生命保険料のうち所得額から一定の額が控除される制度です。医療費控除と同様、所得税や住民税が節税できます。
生命保険料控除の控除額は2011年12月31日以前に契約した場合と2012年1月1日以後に契約した場合で異なり、新制度・旧制度と区別されて計算されます。
節税対策⑤ 住宅ローン控除
住宅ローンを使ってマイホームを購入または増改築した場合、最大13年間、各年末の残高の0.7%を所得税などから控除する制度です。例えば、年末時点のローン残高が3,000万円だとすると21万円の控除が受けられることになります。
ただし、この制度には「床面積が50㎡以上」「借入金の返済期間が10年以上」「合計所得金額は2,000万円以下」といった一定の条件が必要であり、また条件による控除額も異なるため、詳細は国土交通省のホームページなどで一度確認しておくと良いでしょう。
節税対策⑥ ふるさと納税
テレビCMでもお馴染みのふるさと納税ですが、実際にその仕組みまでを理解している人はそれほどいないのではないでしょうか。簡単に説明をすると、自分の生まれ故郷や好きな自治体を応援できる制度です。
2,000円を超える部分については所得税の還付や住民税の控除が受けられる仕組みになっています。例えば、50,000円のふるさと納税をすると、翌年の所得税や住民税から48,000円が控除される上、ふるさと納税をした自治体から15,000円相当の返礼品がもらえるため、合計63,000円分の得をしたということになります。
節税対策⑦ NISA(少額投資非課税制度)
株式や投資信託などの金融商品に投資をした際、売却して利益を得た場合や配当金があった場合は約20%の税金がかかることになっていますが、利益や配当を得ても税金がかからないのがNISAです。
NISAには20歳以上の人が株式・投資信託を年間120万円まで購入できる「一般NISA」、同じく20歳以上の人が一定の投資信託を年間40万円まで購入できる「つみたてNISA」、20歳未満の人が株式・投資信託を年間80万円まで購入できる「ジュニアNISA」の3種類がありましたが、2024年からはジュニアNISAは新規購入ができなくなるほか、一般NISAは5年、つみたてNISAは20年とされていた非課税保有期間が撤廃されることになっています。株や投資に興味のある方はチャレンジしてみてはいかがでしょう。
節税対策⑧ iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoとは自分で拠出した掛金を自分で運用し資産を形成する年金制度です。より多くの国民が豊な老後を送るための資産運用方法として位置づけられています。その一番の特徴は掛金が全額所得控除されること。仮に運用益が出ても税金がかからないため、節税効果が期待できます。まさに会社員にお勧めの資産運用方法と言えるでしょう。
こうした税金に対する知識を知っているのと知らないのとでは大違いです。常に情報を敏感にキャッチして、賢く節税対策に取り組みましょう。
記事内記載出典元:
・所得税のしくみ|国税庁
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/01_1.htm
・住民税について教えてください。所得税とはどう違うのですか?そもそも国税と地方税の違いはなんですか? : 財務省
https://www.mof.go.jp/tax_information/qanda020.html
・雇用保険料率について |厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/001050206.pdf
・No.1415 給与所得者の特定支出控除|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1415.htm
・セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html
・No.1140 生命保険料控除|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1140.htm
・住宅:住宅ローン減税 – 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000017.html
・総務省|よくわかる!ふるさと納税
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/about/
・NISAとは? : 金融庁
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html
・iDeCoの特徴|iDeCoってなに?
https://www.ideco-koushiki.jp/guide/