社員のモチベーションを高め、仕事の生産効率を向上させるため、オフィス環境を整備する企業が近年増加しています。従業員同士がコミュニケーションを取ることができる休憩スペースを作ったり、デザイン性の優れたインテリアで統一したりと、企業それぞれにさまざまな工夫が見られるのが特徴です。
中でも、エントランスや会議室、あるいは各自のデスクの周りに観葉植物を設置する、いわゆる「オフィス緑化」に取り組む企業が増えています。皆さんは観葉植物=緑についてどんなイメージを持っていますか?
「気分が落ち着く」とか「目の疲れが取れる」など、人にさまざまな良い効果を与えてくれるイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。
この記事では、オフィスに観葉植物を取り入れることで、働く環境にプラスの効果を生み出した事例や、観葉植物が働く人に与える影響、オフィスへの効果的な設置方法についてご紹介します。これからオフィスを構える企業や、オフィス緑化が進んでいないという企業の方は、ぜひ参考にしてみてください。
「オフィス緑化」で働く環境を改善
とある製造業の会社では、本社事務所を移転する際、完全フリーアドレス制を導入し、フロア中央にコミュニケーションスペースを配置するなど、大胆なオフィス環境整備を行いました。
その中でも目玉になったのが、フロアの中央に大胆に植物を設置した執務スペースです。デスクに囲まれた3メートル四方のスペースいっぱいに観葉植物を配置しました。(※画像はイメージ)
仕事をする場所なのに、そこだけはうっそうとした林のように緑があふれており、ワークスペースのどこにいても緑が目に入るためか、社員は移転前よりもリラックスして仕事に臨めているそうです。さらに、仕事への集中力が高まったとの声もあがっています。
では実際に観葉植物には、どのような効果が期待できるのでしょうか。活用方法と共にご紹介します。
アルファ波でストレス軽減
リラックス効果で仕事への意欲がアップ
皆さんは「アルファ波」という言葉を聞いたことがありませんか?これは人の脳波の波形の一つで、ゆったりと落ち着いた気分の時に発生すると言われています。目を閉じて瞑想状態の時になると現れやすく、座禅やヨガなど訓練によっても作り出すことができるそうです。
緑を見ることで、アルファ波が増加することは実験によって証明され、研究者の間では定説になっています。植物が目に入る環境ではアルファ波が増幅され、血圧が下がり、筋肉の緊張がほぐれ、心拍数も低下し、ストレスが軽減されます。(※1)
先ほどオフィス緑化の事例として紹介した会社では、観葉植物をオフィス内に設置することで、ストレスが減少し、リラックスした状態で伸び伸びと仕事をすることができるため、社員からは仕事へのモチベーションがアップしたとの声が多く出ているそうです。
※1:千葉大学園芸学部「植物をみたときの脳波特性に関する研究 : 色彩と脳波の関係」
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050007072222994944
観葉植物設置は目の疲れに効果あり
パソコン仕事の強い味方に
メールのやりとりや資料作りなど、デスクワークを行う際、今やパソコンは不可欠なツールと言えるでしょう。とても便利なパソコンですが、ブルーライトとして知られる強い光を放射するため、長時間使用すると目が疲れてしまうというデメリットもあります。
そんなパソコン仕事をする時に大きな味方になってくれるのが観葉植物です。ある大学の研究では、30分間のパソコン作業の後に、5分間観葉植物を見た場合と、他のものを見た場合の目の疲れを比較する実験が行われました。その結果、作業後に観葉植物を見た方が目の疲れが軽減し、回復することが分かったのです。(※2)
また、植物には土壌から吸収した水分を葉に送り、葉の気孔から蒸発させる働きがあります。この働きにより、オフィス内の乾燥を防ぎ、ドライアイを緩和する効果も期待できます。特に葉が大きい植物の方が、水分を放出する量も多いため、加湿効果が高いとされています。
さらに別の大学では、より長期間の実験を行い、植物が与えるさまざまなプラスの効果を証明しています。1ヶ月ごとに観葉植物を設置し、撤去するという実験を、複数の企業のオフィスでそれぞれ4ヶ月間にわたり行い、被験者の心理状態を測定しました。(※3)
その結果、デスクの上に観葉植物を置くだけで、精神疲労を評価する指標が向上し、被験者へのアンケートからも仕事へのモチベーションアップや疲労回復の効果があることが分かりました。観葉植物の効果が学術的にも確認された形です。
※2:愛媛大学農学部「植物には目の疲れを癒す効果があるか」
http://web.agr.ehime-u.ac.jp/~pgs/amenity/cff.html
※3:千葉大学園芸学研究科「オフィスの個人デスクに設置した植物への接触が勤務者の心理に与える影響」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsrt/44/1/44_119/_pdf
視界に占める緑の割合は10〜15%が理想的
オフィスに設置する観葉植物の割合はどのぐらいが理想的なのかは、国土交通省がまとめた「緑視率」の調査結果を参考にするとよいでしょう。緑視率とは、人間の視界における緑の割合のことです。公共施設を建設したり、中心市街地を整備したりするなど、主に街づくりをする際の指標として使用されている数値のことです。国土交通省は「緑視率が高まるほど、安らぎを感じる人が多くなる」と調査結果をまとめています。
緑視率を働く環境に応用する実験では、通常、10〜15%の緑視率が最も効果的で、ストレスが軽減され、仕事のパフォーマンスが向上すると報告されています。
都市の街づくりにおいては、一般的に緑視率が高い方が良いとされていますが、オフィスがあまりにも緑のあふれる状態になっていると、逆に集中力を低下させ、仕事へのモチベーションが低下するためだと考えられます。
窓からの風景を取り入れる「オフィス緑化」
立地によっては自然豊かな風景を活用できる
自分たちで緑を用意するのが難しいということであれば、窓から見える景色を取り入れるのも一つの手です。東京都心には皇居や新宿御苑、代々木公園などの大きな公園がいくつもあり、これらの地域に位置するオフィスビルの周りは、思いのほか多くの緑が広がっています。
大きな公園が近くにあるかどうかは、オフィスを選ぶ際の基準の一つになるのではないでしょうか。窓から公園の緑が一望にできるようなオフィスであれば、これまで紹介してきたような緑の効果が得られるからです。
例えば、クロスオフィス日比谷では、ビルの北側に日比谷公園が広がっており、一部のコワーキングスペースやカンファレンスルームの窓からは、緑の木々を楽しむことができます。また、エントランスには一流の盆栽士が季節ごとに手がける盆栽があり、それを鑑賞しながら心を落ち着けることもできます。
オフィスに観葉植物があるのとないのとでは、仕事に与える影響に大きく違いが出ることはお分かりいただけたのではないでしょうか。「オフィス緑化の取り組みが遅れている」と感じた企業は、観葉植物を設置するなど、緑をオフィスに取り入れてみてはいかがでしょうか。